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日本 動漫(アニメ) 扮演(コスプレ) 熱 「サブカル大好き」 ネット普及が拍車

2015年01月12日(最終更新 2015年01月12日 11時11分) 転載元

政治的には明るい話題の少ない日中関係だが、中国人すべてが「反日」というわけではない。アニメや漫画といった日本のサブカルチャー人気は日本人の想像をはるかに超え、中国の若者たちの心をとりこにしている。北京で開かれたイベントをのぞいてみた。 (北京・相本康一)

昨年12月、天安門広場から南西に10キロほどのビルで開かれた「マイコミック園遊会」。会場は、アニメの登場人物に扮(ふん)したコスプレーヤーであふれていた。

日本のアニメや漫画(コミック)、ゲームが好きな若者たちだ。「初めて日本人に会いました! 緊張します!」。漫画のキャラクターのコスプレをしていた山東省出身の高校生、〓(〓は左が「赤」右が「おおざと」)琳さん(18)が案内役を買って出てくれた。「日本のアニメは、声優も絵もストーリーも音楽も全部好き」。本格的に学んだわけではないが、幼いころから日本のアニメを見て、片言の日本語がしゃべれるようになったという。

この日集まったのは10~20代を中心に約1万2千人。グッズ売り場が並び、声優が出演するショーも開かれていた。こうしたイベントは北京だけでなく中国各地で頻繁に開かれている。

「鉄腕アトム」以来、日本のアニメは吹き替え版が中国のテレビで放送され、人気を博してきた。日中関係の悪化もあって、テレビ放送は2000年代に入り激減したが、その隙間を埋めたのがインターネットの普及。横行した海賊版に代わり、配信権を購入して広告収入で運営するサイトも近年増え、ファンたちは字幕付きの日本のアニメを無料で楽しむことができる。ネットの恩恵は地方にも及び、会場には新疆ウイグル自治区出身のウイグル族のコスプレーヤーもいた。

冷え込む日中関係をどう感じているのだろう。〓(〓は左が「赤」右が「おおざと」)さんは言った。「そんなの関係ないよ。日本のアニメ好きは『愛国的ではない』という大人もいるけれど、国家の問題であって、アニメに罪はないでしょ」

若者たちに共通するのは、アニメなどを通じて芽生えた日本へのあこがれだ。内モンゴル自治区出身の大学2年生、姚佳〓(〓は上が「金」下が「金金」)さん(20)は「日本のアニメが好きで、日本語の勉強を思い立ちました」。秋からの日本留学が決まっている。

会場のあちこちで着飾ったコスプレーヤーの写真撮影が行われていた。撮影者は一様に、撮り終えると深々とおじぎして感謝の意を示す。中国では珍しい。日本式の礼儀作法が意外な形で伝わり、定着していた。

日本のサブカル文化は、急速に普及したネットの力も相まって日本のファンを増やし、反日的色彩が強いと言われる中国の愛国主義教育に風穴をあけている。外交官をどれだけ投入しても得られない「外交的成果」かもしれない。

「いつか日本に行きたいです! 秋葉原、京都、名古屋…」。〓(〓は左が「赤」右が「おおざと」)さんは目を輝かせた。

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●政治は関係ない 自由な表現人気 中国市場仕掛け人 胡乾一さんに聞く

中国の若者たちに浸透する日本のサブカルチャー。背景には、表現の自由を制限する中国共産党の統治手法も影響しているようだ。中国のサブカル市場の「仕掛け人」の一人、イベント会社「北京MYC」の胡乾一社長(29)に聞いた。(北京・相本康一)

-12月の北京でのイベント「マイコミック園遊会」は盛況だった。

「朝の開場前に千人の行列ができた。2009年以来、毎年サブカルに関するイベントを開催しているが、毎回1万5千人前後が集まる。アニメに登場する日本の場所を訪ねる『オタクツアー』も行っている」

「私自身、日本の漫画やアニメを見て育った。最近は社会問題を扱った硬派の漫画やホラー系の作品を読んでいる。『神さまの言うとおり』がお気に入り」
-なぜ中国で日本のサブカルが支持されるのか。

「欧州よりも日中両国の文化が近いこと。ネットの普及も大きい。テレビと違い、時間を気にしなくていい。勉強が終わってから、好きな時間に視聴できる」

「昔は海賊版ばかりだったが、最近は配信権を購入したサイトが定着した。閲覧数によって広告収入が左右されるため、日本の作品を増やしている。中国での版権意識は少しずつ改善されている。違法だが一つ言えることは、海賊版は多くの中国人に日本について知る機会を与えたということ。中国の巨大市場は潜在力があり、日本企業にとっても今後魅力的だと思う」

-中国のアニメとの違いは。

「中国は制限が多い。例えば、幽霊は駄目。(中国共産党による)新中国建国以来、古来の迷信などは排除されてきた。過激な表現も難しい。最近ヒットした日本の『進撃の巨人』の場合、巨人が人間を食べるシーンが出てくるが、あの描写は中国では無理だろう。日本のコンテンツはストーリー性も豊かだ」

-日中関係の悪化は意識するか。

「私自身、10回くらい訪日し、靖国神社も訪れた。日本人が北京に来て天安門広場に行くのと同じ感覚だ。多くの中国人は、首相参拝の何が問題か、分かっていないと思う。これは風習や民族としての考え方に関わる話だろう」

「その話と、私たちのビジネスは関係ない。確かに、政治とごっちゃにする人はいるが、ファンの多くはアニメを通じて日本に興味を抱き、『政治は関係ない』と思っている。私も日本のアニメが大好きだし、日本の食文化も大好き。サブカルを通じて両国の交流が深まればいい」
=2015/01/12付 西日本新聞朝刊=